便潜血検査で陰性だからといって100%安心しない

勤務している会社や自治体の健診で「大腸がん検査」として行われているのが、「便潜血検査」です。この検査を受けて「便潜血が陰性だったから、大腸がんは大丈夫」と安心している人も多いはずです。

急増する大腸がんは40代からが要注意

しかし内視鏡医の専門医曰く、この検査は早期の大腸がんや大腸ポリープの発見には、ほとんど意味をなしていません。なぜなら、早期の大腸がんや大腸ポリープで、便潜血検査が陽性になることは極めて少ないからです。

早期の大腸がんや大腸ポリープは、大腸の管腔に占める大きさがまだまだ小さいため、便が通過する際にはポリープやがんに擦れることなく、便はスルッと通過してしまいます。そのため、出血することなく、便潜血検査では陰性という判定になるのです。

特に、大腸の始まりの部分であるお腹の右側の盲腸部・上行結腸・横行結腸では、便がまだ水分を多く含む状態で、便がやわらかくて固形になっていないため、大腸がんや大腸ポリープに便が引っかかり、出血や痛みなどの症状が出るケースははとんどありません。

逆に便潜血が陽性になるのは、大腸がんがかなり進行して、便のとおりが悪くなるぐらい大きくなっている場合がほとんどです。進行した大腸がんにより狭くなった腸を便が通過する時にがんの表面が擦れて出血し、血がつくようになるからです。大腸がんは自覚症状のないがんの代表ですから、便潜血検査で明らかに出血がわかるような段階では、かなり進行した「手遅れ大腸がん」の状態になっていることが多いのです。

また便潜血が陽性になる原因の大部分を占めるのは、日本人に多い「痔」が切れて便に血がつくケースです。特に内痔核と呼ばれる肛門の内側にできる痔は、自覚症状がないことも多く、検査が陽性になって大腸内視鏡検査を受けてみて初めて痔に気づく人も少なくありません。

早期の大腸がんや大腸ポリープの早期発見は難しいうえに、がんとは関係のないところで陽性の結果が出てヒヤリとする例も多いのが、便潜血検査ということです。なんとなくこの検査を受けているだけで安心しているという人は、要注意だと思われます。

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早期発見のために 胃バリウム検査の精度とリスクとの兼ね合い

検査による医療被ばくにも注意

職場の健診や人間ドックで行われている検査に、胃バリウム検査があります。この検査は胃がんや食道がんの早期発見を目的に広く行われていますが、内視鏡治療が行えるぐらいの早期がんを、この胃バリウム検査で見つけられることばほとんどないといっていいでしょう。

ごく早期の胃がんや食道がんは、粘膜の凹凸を伴うことは少なく、粘膜の微細な色彩変化として現れているケースが大半です。
それに対して胃バリウム検査は、大量の放射線を照射することで胃や食道の粘膜の凹凸を「影絵」の原理で見るものです。

そのため凹凸のない早期の胃がんや食道がんを発見することは、原理的に難しいのが現実です。特に食道は口からストレートに胃につながる臓器で、バリウムが留まることなく一瞬で胃内に落ちてしまうため、バリウム検査で早期の食道がんをとらえることは非常に困難であるといえます。

結果として胃バリウム検査で発見された胃がん、食道がんは、すでに進行した状態になっていることが多く、かなりの確率で外科的手術や抗がん剤での治療になってしまいます。

内視鏡で治療できるようなごく早期のがんは、ほとんど見つけられません。さらに胃バリウム検査は、多量の放射線を照射して臓器を撮影するため、「被ばく」という問題が生じます。放射能は体に蓄積されやすく、遺伝子の本体であるDNAを傷つけて、がんを発生させます。つまり医療被ばくによる「発がん」のリスクがあるということです。

イギリスのオックスフォード大学のグループでは、日本人で75歳までにがんを発症する人のうち、3.2% は放射線診断による被ばくによってがんが誘発されると推計しています。この数値は調査した15か国のうち、一番高いものでした。

これは、被ばく線量のかなり多い胃バリウム検査が広く行われていることも、大きく関係していると推察されます。
胃バリウム検査は、検診センターなどで撮影する直接撮影(大きなフィルムで撮影する方法)では1回の撮影で15〜25 msyの被ばく量ですが、検診車などで撮影する間接撮影(小さなフィルムで撮影する方法) では20〜30msyもの被ばく量になります。

胸部X線写真(胸部レントゲン撮影)の1回の被ばく量が0.1msyですから、胃バリウム検査では、胸部X線写真の150~300倍もの被ばくを受けることになります。特に検診車での検査は、「職場に検診車が来てくれて助かる」と思っていた人も多いかもしれませんが、被ばく量が特に多いことはあまり知られていません。

放射線によってDNAが傷ついて発がんする被ばく量は、50~200msyといわれていますので、1回の胃バリウム検査で発がんすることはありませんが、毎年胃バリウム検査を受けているとDNAが次第に傷つき、がんが発生してしまう可能性は否定できない事実です。

また、バリウムを飲むこと自体も苦痛を伴います。バリウムとともに服用する胃を膨らませる目的の発泡剤では、ゲップを我慢しなくてはならず、なにより腹部の不快な膨張感に耐えなければなりません。検査のあとはバリウムを排出するために下剤を飲みますが、それでもバリウムを出せずに苦しむ人も多くいます。

健康維持のためと称して、苦しいうえに精度の低い胃バリウム検査を受け、放射線被ばくが原因でがんになってしまったのでは、なんのための検査かわかりません。

医療関係者、特にドクターで胃バリウム検査を受けている人は今の時代ほとんどいないのではないかと思われます。胃バリウム検査を積極的に受けているのは、よっぽど不勉強な医師か、バリウムの味が好きで、台の上でクルクル回るのが好きな医師ぐらいでしょうか。

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早期発見のために 職場の簡易な健診だけでは不足

定期健診だけで安心してはいけない

企業などの事業者は、働く人の健康管理のために定期的な健康診断を実施することが義務づけられています。これが、職場の定期健診と呼ばれるものです。労働安全衛生法で、一般健康診断の項目として挙げられているのは、次の11項目です。

  1. 既往症および業務歴の調査
  2. 自覚症状および他覚症状の有無の検査
  3. 身長、体重、腹囲、視力、聴力の検査
  4. 胸部エックス線検査および噂疲検査
  5. 血圧の測定
  6. 貧血検査
  7. 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
  8. 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
  9. 血糖検査
  10. 尿検査(尿中の糖および尿蛋白の有無)
  11. 心電図検査

こうした定期健康診断は、多くの人を対象に、病気を効率よく、また低コストで発見するためのスクリーニング検査です。

肥満や高血圧、高血糖、動脈硬化といった生活習慣病を中心に、心臓疾患や肝障害、腎障害といった深刻な病気につながる兆候がないかを大まかにチェックするものです。

厚生労働省が平成20年から行っている、40歳以上の人を対象とした特定健康診査、通称メタボ健診も、同様の目的の検査といえます。

これらの健康診断では基準値というものが示されますが、この基準値とは健康な人のデータの上端・下端の各2.5% を除いた95% の人の平均データを表しています。この基準を外れた人の中から病気が発見されることが多いので、いわば病気の確率が高い人と低い人をふるいにかけてわけている、という性質の検査です。

そのため各検査の数値が基準値内だからといって、完全な健康体というわけではありません。これらの検査でわかるのは各臓器の働きが平均データの中に収まっているか否かという機能の異常があるかないかを見ているだけに過ぎません。

またこれらの検査の指標だけでは、早期のがんの有無はまったくわかりません。検査の目的が異なるからです。生活習慣病のチェックという点では定期健診にも一定の意義がありますが、ことにがんの有無に関しては、「定期健診を受けているから安心」とは決していえないことを覚えておいてください。

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