ガンとウィルス

肝炎と肝がん

がん全体の約10%が、ウイルスや細菌感染による慢性炎症によって起こるといわれています。とくに日本では、B型およびC型肝炎ウイルスが、肝臓がんの原因の90%を占めるといわれています。
出産時の母子感染、ウイルスに感染した血液の輸血、針刺し事故(過去には汚染された注射針の使い回しによる汚染)などで感染が広がりました。
肝臓は再生能力が高く、感染が持続しても一生気づかない場合もあります。このように持続感染する肝炎のことを「慢性肝炎」といいます。
慢性肝炎は自覚症状も少なく、進行も蔵慢なので、慢性肝炎のまま生涯を閉じることもあります。しかし、さらにウイルスの活動が続くと、肝硬変や肝細胞がんになってしまいます。したがって現在の肝がんの予防は、B型・C型肝炎のウイルスに感染しないこと、感染したヒトからウイルスを排除すること、進行を遅らせて肝がんになるまでの期間を延ばすことです。ところがC型肝炎患者のなかで、肝がんになりやすい人となりにくい人がいます。
感染時の年齢が50歳以上であれば病気の進展が急激であることがわかっています。ほかにも、性別、飲酒状況によって感染してから慢性肝炎、肝硬変、肝がんへの進展速度に差があることが報告されています。
ちなみに慢性肝炎から肝硬変になる速度は、男性が女性の1.4倍、お酒を飲む集団は飲まない集団の1.3倍でした。
B型肝炎ウイルスワクチンはすでに開発され、感染リスクの高い医療関係者に接種が行われています。
しかし、C型肝炎ウイルスについてはウイルスの遺伝子変異が激しいためにワクチンの開発が難しく、感染者の治療は肝がん予防が中心です。国家プロジェクトとして、献血による血液のB 型・C 肝炎ウイルスのスクリーニング(ふるい分け)、B型肝炎ウイルスの母子間感染ブロック(産道での血液による母子問の感染予防)、2002年から実施されている肝炎ウイルス検診などがあります。まずは肝炎ウイルスの有無の検査を受け、診断結果後は主治医と相談して、がんにならない治療をします。

ヒト・パピローマ・ウィルス(乳頭腫:HPV)と子宮頸がん

子宮がんのうち、膣と子宮をつなぐ頚部、つまり子宮とをつなぐ首のような部分にできるがんは子宮繋がんと呼ばれ、子宮内部にできる子宮体がん(子宮内膜がん) と区別されます。
子宮頚がんのもっとも重要な原因のひとつはヒト・パピローマ・ウィルス(乳頭腫:HPV)の感染です。HPV には非常に多くのタイプが見つかっていますが、高リスク型はごくわずかです。しかも高リスク型に感染していても必ず子宮頸がんになるとは限りませんので、喫煙や食事などの生活習慣が関与している可能性が考えられます。
HPVの感染経路は性行為です。
リスク要因としては、初交年齢が低いこと、自分自身やパートナーの性行為の相手の数が多いことが挙げられます。しかし、コンドームの使用でリスクが下がるという報告もあります。ですからHIV( いわゆるエイズ)やほかの性感染症と同様に考えることができます。これからの性教育には性感染症とともに、発がんのリスクを啓蒙していく必要もあるでしょう。また、ウイルスに感染しても免疫で排除できれば問題はなく、米国などではワクチンの開発や予防効果の検討が始まっています。しかし、治療方法として確立されるまでにはまだまだ時間がかかるので、感染がゎかった場合は、発症しないように、「がんを防ぐための12カ条」を守って日頃の生活習慣から予防につとめましょう。

ヘリコバクター・ピロリ菌と胃がん

40歳以上の日本人の8割がピロリ菌に感染しているといわれ、飲み水や食べ物を介して口から感染するとされています。日本の研究を含め、感染者は非感染者に比べて胃がんの発生率が高いという証拠はたくさんあり、IARC(国際がん研究機問) でも、ピロリ菌感染は胃がんにとって確実に発がん性があるとしています。
しかし、すべてのピロリ菌感染者が胃がんになるというわけでなく、実際に胃がんになる人は1割に満たないといわれています。日本同様にアジアやアフリカなど感染者の多い地域では、胃がん発生率が日本よりはるかに低い状況です。つっまり、ピロリ菌感染は胃がんのリスクのひとつにはなりますが、食事や喫煙などの生活習慣の影響のほうがはるかに大きいといえるでしょう。そこで注目されているのが食塩の摂取量です。日本での疫学調査から「食塩が胃の保護粘膜を傷つけ、その結果、胃粘膜が胃酸によってダメージを受け、胃の炎症が進み、そこに食べ物などから入ってきた発がん物質が作用して、がん化しやすい環境を作るのではないか」と推測されています。
また、高塩分食品は胃の深い所に持続的な慢性胃炎を引き起こし、胃がんの原因と考えられているヘリコバクター・ピロリ菌が持続感染しやすい状態を作ることが知られています。
この推測が正しければ減塩することで胃の炎症やピロリ菌の感染を防いで胃がんを予防することができるかもしれません。このほか、ピロリ菌には除菌治療というものがありますが、胃がん予防効果があるかどうかは、現在のところ断定できません。やはり、「がんを防ぐための12か条」を実践し、なかでも減塩につとめておくのが賢明でしょう。

身近な環境に潜む発がん物質

がんを招く要因のなかには自分の努力ではどうにもならないものもあります。喫煙していないのに吸ってしまう「たばこの煙(受動喫煙)」はその代表格です。
そのほか、ごみを燃やした後に発生するダイオキシン、地球環境の悪化に伴う過剰の紫外線、自動車の排気ガスや工場からの大気汚染物質などがあります。これらは行政や世界レベルでないと対応できないものですが、発がんに関しては、もっとも身近な「たばこの煙による大気汚染」に比べてごくわずかです。
イタリアの工場爆発事故での高濃度のダオキシン曝露(ダイオキシンにさらされてしまう) 事故のほか、仕事で扱っていた化学物質にダイオキシンが混じっていて慢性的に曝露していた人たちなどを追跡し、どのような病気になったかを調査した研究報告があります。これによると、職業的に曝露した人たちにおける、ダイオキシンの血中濃度が普通の人の1000倍の場合、がんのリスクは1.4倍に上がっていました。
しかし、これより血中濃度の低い事故では、がんリスクは1.0倍と一般の人とほぼ同じでした。また、日本のごみ焼却場で起きたダイオキシン曝露事故では、被害者のなかでもっとも血中ダイオキシン濃度が高い人でもそれを100倍してやっと喫煙とほぼ同じリスクになります。
さらに、環境ホルモン(内分泌撹乱物質)が問題視されていましたが、発がん性に限り、ヒトへの影響はそれほど大きくないと推測されています。
動物実験や野生生物のメス化などの影響は観察されていますが、実験動物とヒトでは、体の大きさ、寿命、遺伝子塩基配列の違いから発生するがんの種類も違います。
今のところ、ヒトにおける健康影響を示唆する信頼性の高いデータは存在していません。1996年のハーバード大の推計によると、環境汚染全般で米国のがん原因の2%程度とし、同推計でたばこは30%とされています。以上のことから、発がんのリスクに関しては、たばこがもっとも悪影響が大きいといえるのです。

環境ホルモンから自分の身を守るために個人でできることとして重要な行動はこちら。

その12、体を清潔に

いつもキレイに

約200年前に、イギリスで、煙突掃除を職業としている人々の問に陰嚢の皮膚がんんが発生し、職業がんの発見となりました。
その後、煙突のすすの中に皮膚がんの原因となるものが見つかり、仕事をした後は体を洗うようになり、この皮膚がんはみられなくなりました。
これは、体を清潔にすることでがんの発生が予防できたよい例です。
このほか、海外で体を洗う習慣がない人々に皮膚がんや子宮頚がんが多発しました。発がん物質に接触しても、入浴やシャワーを浴びることによって体を清潔に保つことで体についた発がん物質を除くことができます。
皮膚の汚れが溜まりやすい部分はいつも清潔に保つようにしましょう。