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簡易なガン検診の本来の目的まで理解する

なぜこうした精度に疑問があるような検査が自治体などで「がん検診」として広く行われているのかと、疑問に思うかもしれません。

それは、がん検診がなにを目的としているか、ということにその答えがあります。しかし実は、職場や自治体などで採用されている一般的ながん検診は、「ごく初期の小さながんもすべて見落としなく発見する」ことを目的としているわけではありません。

がん検診の対象となるのは、そのがんになる人数が多く、またそれによって死亡する人が多い種類のがんです。そしてがん検診の目的は、検診によってがんの発見を増やし、さらに適切な治療につなげることで、国や集団全体としてがんによる死亡を減少させることです。

つまり、徹底的に調べ上げてがんを見つけだすことががん検診の目的ではなく、極端にいえば、死亡率に影響しないような小さながんは見つけなくてもいい、というのが、自治体などの一般的ながん検診のスタンスです。集団としてのがん死亡率低下が、目指す地点だからです。

しかし、個人の人生でいえば「小さながんなら見つけなくてもいい」とは、誰も思わないはずです。がんが大きくなればなるほど治療にかかる身体的・経済的・精神的負担は大きくなりますし、ステージが進めば生存率も下がります。がんはできるだけ小さいうちにできるだけ初期のうちに発見するに越したことはないのです。

国のがん死亡率がどれだけ低下しても、自分が不幸にもがんで命を落とす側になってしまったら、まったく意味がありません。そう考えると、がんを防ぐためには、精度の高いがん検査を自ら選んで受け、自分で自分の健康と命を守っていく必要があります。

がんの発生が増える40代以降は、きちんとした精度の高いがん検査を受けることをぜひ習慣にしましょう。特に、胃がんや大腸がんといった消化器のがんでは、専門医による内視鏡検査で定期的に検査を受けることをおすすめします。
胃バリウム検査や便潜血検査はもちろん、人間ドックの高額なPET検査であっても、早期の消化器がんは発見が難しいからです。

適切ながん検査によって早期発見・早期治療につながるといわれているがんは、胃がん、大腸がん、肺がん、子宮頸がん、乳がんの5 つです。

臓器ごとのがん検査の検査法などは次から説明していきますが、胃がん、大腸がん、肺がんに加えて、男性では50代後半になったら血液検査で前立腺がんの腫瘍マーカー検査(PSA)を、女性では比較的若い時期から乳がん、子宮頚がん検査を受けると非常に効果的ながん対策になるものと思われます。

最新のPET検査も がん検診には万能ではない

腫瘍マーカー採血や検診などの一般採血では早期がんは見つからないはちょっと意外だったかもしれませんが、PET検査も万能ではないのです。

がん検診のひとつとして、人間ドックなどで行われている検査に「PET(ペット)検査」というものがあります。PETは、positron emission tomography (陽電子放出断層撮影) の略です。

ガン細胞はブドウ糖を栄養素として成長するため、通常の細胞の約3~10倍ものブドウ糖を消費するといわれています。PET検査は、がん細胞がブドウ糖を多く消費する性質を利用して、ブドウ糖に近い成分のFDGと呼ばれる放射性物質を体内に注射し、その放射性物質ががんに集まる様子を画像としてとらえる検査です。

現在、がんを早期発見する検査として主流になっているCT検査やMRI検査は、映し出された臓器の形態や病変の形から、がんを見つけ出すものです。

これに対してPET検査は、がん細胞のブドウ糖の取り込みやすさという性質を利用して、がんを見つけ出す仕組みとなっています。PET検査は、もともと転移を含めたがん病巣の広がりや、がんの再発を見るための検査として開発されたもので、がんを早期で発見するのが本来の目的ではありませんでした。それにもかかわらず新しいがん検診機器としてマスコミが大々的に報道し、一部の検診クリニックの誇大広告などもあり、「すべてのがんが見つかる」というような大きな誤解が広がっていった実態があります。

そのため、最新のPET検査といえどもやはり万能ではありません。ブドウ糖の代謝が促進されている再発がんは数ミリの大きさでも捉えられること多いですが、ブドウ糖の取り込みが少ない早期がんは、PET検査では判別がとても難しいといわれています。また部位(臓器) たよっても、見つけすいがんと、見つけにくいがんがあります。

PET検査のメリットとしては、がんの転移や再発を早期に、より小さな病変で見つけることが可能という点です。一方、デメリットは食道や胃、大腸、肝臓などの早期がんの発見が難しいことや、放射性物質のFDG が集まりやすい脳や肝臓、腎臓、勝胱などのがんが見つけにくいこと、血糖値が高い人は診断が難しい点などが挙げられます。

さらに早期の肺がんはFDGががん細胞に集まりにくいため、胸部CTのほうが発見しやすいとされています。

最近ではPETにCT検査を組み合わせるPET/CT検査が増えており、PETの弱点を補う工夫がされていますが、それでも特に粘膜の微細な変化のみである早期の消化器がんは、こうした検査では発見するのは難しいのが現状です。

国立がん研究センターのがん予防・検診研究センターでは、ある年のがん検診でのPET検査陽性率の解析を行っています。それによると、1年間でがん総合検診を受けた約3000人中、約150人にがんが見つかり、そのうちPET検査で陽性となったのは15%に過ぎないというデータが発表されています。

これは、逆にいうと、85%のがんはPET検査では発見できないということです。同センター検診部長の医師は「PET検診の意義は小さいのではないか」ともコメントしていました。

PET検査装置は、最大で約10億円台の初期投資がかかるとされています。PET装置メーカーやPET装置を取り扱う商社や薬剤メーカーなどがこぞって医療機関に売り込んだことから、初期投資回収のために誇大広告をし、「すべてのがんが見つかるがん検診」として、誤解が広がっていったともいわれています。

人間ドックで最新のPET検査を受けたから、「がんの心配はゼロ」とは決していい切れないことを知っておいてほしいと思います。

腫瘍マーカー採血や検診などの一般採血では早期がんは見つからない

一般的な簡易健康診断だけではがんの発見にならないということで、検診などで別料金を払って行うオプション検査項目が「腫瘍マーカー採血」です。

腫瘍マーカーとは、悪性腫瘍(がん)の指標となる特殊な物質のことで、がんがある場合に特徴的にみられる酵素やたんばく質、ホルモンなどが増えていないかどうか、血液検査などで調べます。

この腫瘍マーカー検査を通常の健康診断や人間ドックのオプションとして、わざわざ追加料金を払ってオーダーしている人もよく見かけますが、腫瘍マーカーはもともとがんを早期に見つける検査ではありません。

本来、血液検査の腫瘍マーカーは、進行がんに対して手術や抗がん剤治療を行い、その効果測定をしたり、がん再発の有無の指標となるために用いられるものです。腫瘍マーカーは、がんが別の臓器に転移するぐらい大きくなって(進行して)初めて、異常値になることがほとんどで、場合によっては、がんがかなり進行した段階でも腫瘍マーカーは基準値内を示すこともよくあります。

つまり、たとえ腫瘍マーカーが基準値範囲内であっても、「体内にがんがない」ことにはまったくならないので注意が必要です。たとえば、P-53 という腫瘍マーカーは、2007年に乳がん、大腸がん、食道がんの診断に保険適用が認められた比較的新しい腫瘍マーカーです。早期がんでも陽性になることがあるといわれていますが、早期がんで陽性になる確率は5~20 % 以下としているケースが多いです。

またCEAは、胃がんや大腸がんの腫瘍マーカーとして知られていますが、進行胃がんの30〜40 % にしか検出されません。CEA は肝臓がん、胆道がんなどの消化器系がん以外のがんでも異常値を示す反面、臓器特異性は低いので、この検査だけでは正確な診断はまったくできません。

また異常値を示すのは進行がんが多く、早期がんの診断には適さないので注意が必要です。CEA は喫煙や加齢でも上昇することがあるともいわれます。

がんが身近な病気になった最近では、がん検診を特徴として売り出しているクリニックや検診センターなどで「全がん腫瘍マーカー検査」と称してCEA、CA19-9、SCC、NSE、P-53 ca-125 、AFP 、PIVKA-Ⅱ といった、多くの腫瘍マーカー値を高額な料金で採血・測定しているところもあります。

しかし、腫瘍マーカーの性質をよく考えれば、こうした検査はがんの早期発見にははとんど意味のない医療行為だとわかります。血液検査で調べられる腫瘍マーカーで唯一、例外的に早期発見に役立つといえるのは、前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSA のみです。PSA は、前立腺がんの初期の段階で異常値を示すことが比較的多いため、早期発見の指標として有用といわれています。

反対に、自覚症状の出にくいがんの代表である食道がん、胃がん、大腸がんに関しては、腫瘍マーカー検査で早期にがんを見つけることはまず期待できませんので注意してください。

各種の腫瘍マーカー値は正常であったにもかかわらず、早期の消化器がんが発見された症例はたくさんの症例があります。不確実な検査の値に頼るよりも、内視鏡検査で実際に粘膜を診ることのほうが、消化器系の早期がんの発見には欠かせないということです。

また、がんが体の中にできてくると一般的な採血でも多少の異常値が出るのでは、と誤解されている患者さんたちを診察室でよく目にします。

一般的な採血を行うことによってわかることといえば、各臓器の働き(機能)が異常になっていないか? 生活習慣病の指標となるコレステロール値や血糖値、尿酸値などに異常がないか、などであり、仮にがんがある臓器にできたとしても採血でわかるぐらいその臓器の働きに影響を与えるのはかなりがんが進行してしまった段階といえます。

検診や病院で行われる一般的な採血では、がんの有無はわかりませんので注意してください。また、血液中のアミノ酸解析で「がんリスク」や「病気のリスク」を分析する高額な費用のかかるアミノインデックスなどの検査が行われるようになってきましたが、まだ現段階では早期がんをきちんと正確に診断できうる検査ではないといえます。

現在、国立がん研究センターと各企業が共同で、検診などの血液検査などで簡易にがんや認知症などを調べることができる研究を開始しております。人の血液や唾液、尿などに含まれるマイクロRNAと呼ばれる22塩基はどからなる小さなRNA を調べることにより、がんや認知症などを早期に発見しようという研究で、がん等の疾患に伴って人の血液中などでその種類や量が変動することが明らかになってきています。

こうした血液中のマイクロRNA量は、がんの転移やがんの消退などの病態の変化や抗がん剤の感受性の変化に相関することがわかってきており、今までにない新しいがんや認知症などの疾患マーカーとして大いに期待されています。