一般的な簡易健康診断だけではがんの発見にならないということで、検診などで別料金を払って行うオプション検査項目が「腫瘍マーカー採血」です。
腫瘍マーカーとは、悪性腫瘍(がん)の指標となる特殊な物質のことで、がんがある場合に特徴的にみられる酵素やたんばく質、ホルモンなどが増えていないかどうか、血液検査などで調べます。
この腫瘍マーカー検査を通常の健康診断や人間ドックのオプションとして、わざわざ追加料金を払ってオーダーしている人もよく見かけますが、腫瘍マーカーはもともとがんを早期に見つける検査ではありません。
本来、血液検査の腫瘍マーカーは、進行がんに対して手術や抗がん剤治療を行い、その効果測定をしたり、がん再発の有無の指標となるために用いられるものです。腫瘍マーカーは、がんが別の臓器に転移するぐらい大きくなって(進行して)初めて、異常値になることがほとんどで、場合によっては、がんがかなり進行した段階でも腫瘍マーカーは基準値内を示すこともよくあります。
つまり、たとえ腫瘍マーカーが基準値範囲内であっても、「体内にがんがない」ことにはまったくならないので注意が必要です。たとえば、P-53 という腫瘍マーカーは、2007年に乳がん、大腸がん、食道がんの診断に保険適用が認められた比較的新しい腫瘍マーカーです。早期がんでも陽性になることがあるといわれていますが、早期がんで陽性になる確率は5~20 % 以下としているケースが多いです。
またCEAは、胃がんや大腸がんの腫瘍マーカーとして知られていますが、進行胃がんの30〜40 % にしか検出されません。CEA は肝臓がん、胆道がんなどの消化器系がん以外のがんでも異常値を示す反面、臓器特異性は低いので、この検査だけでは正確な診断はまったくできません。
また異常値を示すのは進行がんが多く、早期がんの診断には適さないので注意が必要です。CEA は喫煙や加齢でも上昇することがあるともいわれます。
がんが身近な病気になった最近では、がん検診を特徴として売り出しているクリニックや検診センターなどで「全がん腫瘍マーカー検査」と称してCEA、CA19-9、SCC、NSE、P-53 ca-125 、AFP 、PIVKA-Ⅱ といった、多くの腫瘍マーカー値を高額な料金で採血・測定しているところもあります。
しかし、腫瘍マーカーの性質をよく考えれば、こうした検査はがんの早期発見にははとんど意味のない医療行為だとわかります。血液検査で調べられる腫瘍マーカーで唯一、例外的に早期発見に役立つといえるのは、前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSA のみです。PSA は、前立腺がんの初期の段階で異常値を示すことが比較的多いため、早期発見の指標として有用といわれています。
反対に、自覚症状の出にくいがんの代表である食道がん、胃がん、大腸がんに関しては、腫瘍マーカー検査で早期にがんを見つけることはまず期待できませんので注意してください。
各種の腫瘍マーカー値は正常であったにもかかわらず、早期の消化器がんが発見された症例はたくさんの症例があります。不確実な検査の値に頼るよりも、内視鏡検査で実際に粘膜を診ることのほうが、消化器系の早期がんの発見には欠かせないということです。
また、がんが体の中にできてくると一般的な採血でも多少の異常値が出るのでは、と誤解されている患者さんたちを診察室でよく目にします。
一般的な採血を行うことによってわかることといえば、各臓器の働き(機能)が異常になっていないか? 生活習慣病の指標となるコレステロール値や血糖値、尿酸値などに異常がないか、などであり、仮にがんがある臓器にできたとしても採血でわかるぐらいその臓器の働きに影響を与えるのはかなりがんが進行してしまった段階といえます。
検診や病院で行われる一般的な採血では、がんの有無はわかりませんので注意してください。また、血液中のアミノ酸解析で「がんリスク」や「病気のリスク」を分析する高額な費用のかかるアミノインデックスなどの検査が行われるようになってきましたが、まだ現段階では早期がんをきちんと正確に診断できうる検査ではないといえます。
現在、国立がん研究センターと各企業が共同で、検診などの血液検査などで簡易にがんや認知症などを調べることができる研究を開始しております。人の血液や唾液、尿などに含まれるマイクロRNAと呼ばれる22塩基はどからなる小さなRNA を調べることにより、がんや認知症などを早期に発見しようという研究で、がん等の疾患に伴って人の血液中などでその種類や量が変動することが明らかになってきています。
こうした血液中のマイクロRNA量は、がんの転移やがんの消退などの病態の変化や抗がん剤の感受性の変化に相関することがわかってきており、今までにない新しいがんや認知症などの疾患マーカーとして大いに期待されています。